トーテムとタブー1913-001/1928.ja
  • S.

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    譯

    著者序

    本書トーテムとタブーはフロイド „Totem und Tabu“, (一九二二年第三版) の全譯である。フロイ
    ドの偉大なる業績は既に世界的に認識されて居るもので、茲に改めて説明する必要もあるまい。
    氏は一八五六年五月六日、フライベルヒに生れ、維納、巴里等に學び、後維納大學の教授となつ
    た。其の著書は極めて多い。
    本書は道德、藝術、宗教、法律等偉大な文化的所産の起原を究明し、かのヴントの大著が企て
    て尙ほ未解説のまゝ殘されて居る民族心理學上の諸問題に解説を試みようとする勞作である。
    トーテムは家族制度以前の、而してそれよりも強い原始群の紐帶となつたものであつた。著者
    はトーテムの精神分析的見地から、原罪――クリストの犠牲死――家族制組織――國家形成に至
    る關連と其の發展過程を論述して居る。從つて太初の人間が強固な群又は部族的集團をなして生
    活をした一側面の犀利な觀察でもあり、社會科學上の一貢献でもあるといへよう。
    タブー論に於ては、著者は良心及「無上命令」の起原に論及し、且つ、いかにして魔の恐怖が

  • S.

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    祖先崇拝の観念に熊様を變へるに至つたか? 彼等の性的道徳はいかにしてかくも厳格に維持せ
    られたか? 等の問題及び王室の儀容を整へ、王城を固くする動機が支配者にタブーの拘束と負
    擔を課する動機に出た、といふやうな諸問題を取扱ひ、支配者を神格化すると同時に、これに反
    動し、復讐を企てる二元的感情がいかなる形式に於て表現を求めたか等劃期的の業績をなした、
    といはれて居る。
    尚ほ精神病患者の心理と原始人の心理とを比較して、ヒステリーは藝術創造の、強迫神経病は
    宗教の、偏執狂は哲學體系の諷意的戯畫である、といふが如き人間心理の秘奥にメスを振つて驚
    くべき展開を試みて居る。
    私はこの拙譯がかくの如き名著の價値を損することなきやを憂ひ、普く叱正を請ふてやまない
    ものである。

    一九二八年三月

    譯
    者
    識